静と動の攻防戦

1周600m×3周=1,800mの攻防。時間にして約3分。この凝縮された濃密な時空間で、レーサーたちの真剣勝負は決着する。コンマ1秒の差でゴールラインを切るのは誰なのか。固唾をのんで見守る観客の目の前で、意地とプライドをかけた激闘が繰り広げられる。

ピットアウト直後、選手たちは待機行動で有利なコース取りの駆け引きを始める。最内の1コースが一般的に有利とされ、大外の6コースは走る距離が長くなる分、不利になってしまう。例外はあれど、選手たちは自分の力をより発揮できる場所へ静かに舟を進める。自分の位置を確保したら6艇はそれぞれのペースで加速していく。スピードを乗せスタートラインを切ったら、その勢いを殺さず1マークを旋回。ここを上手く回れるか否かがレースの勝敗に大きく影響する。ボートレースでは、後方のボートは先行するボートが立てる引き波の影響を受けてスピードを殺されるため、一度遅れを取った選手が後半に巻き返すことは難しいのだ。

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2006年にデビューした茅原悠紀選手は、2014年に優勝賞金1億円を誇るビッグレース「グランプリ」で見事優勝を果たしている。優勝戦ではもっとも不利なはずの最外の6コースながら、その日の最速タイムでゴールインした。

「あの3分間はとても長く感じました。大外から差して1コーナーで首位に立ったときは、ここからどう走るかで頭がいっぱいで、不思議と緊張はしていなかったです。だから2コーナー以降も、最高のターンを決めてやるぞ、自己ベストを叩き出してやるぞと自分に言い聞かせながら、最後まで全力で走りました。その結果が、ボートレース平和島における、その日のコースレコードでした」

限られた時間の方が、レースへの思いが強くなる

選手たちは勝利のために、365日の体調管理はもちろん、レース場ではプロペラやモーターの整備に膨大な時間を費やす。しかし、勝負の明暗を分けるレースはたったの3分間。それまでに積み上げた時間に比べれば、ほんの一瞬にすぎない。このわずかな時間に最高の結果を残すレーサーもいれば、力を出しきれず涙を飲むレーサーもいるのだ。

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「僕は性格上、これしかないとか後に引けない状況のほうが俄然、盛り上がるタイプなんです。3分というレース時間は短いように思われるかもしれませんが、僕はちょうどいい。『この一戦ですべてが決まる』という極度のプレッシャーがあるからこそ、レースへの思いが強くなりますから」

飽くなき速さへの渇望

レースに勝つことは、イコール誰よりも速く走ることだ。特にレース中に6回あるターンでは、実力差が如実に現れる。スロットルレバーを離し、ボートを安定させてハンドルを握る。その一連の動作をレーサーたちは「仕事」と呼ぶ。勝つためにはその「仕事」にかかる時間を縮め、いかに無駄を削ぎ落とすかが鍵となる。

茅原選手の強さは、圧倒的なターン技術の高さだろう。スピードに緩急をつけ、豪快かつ繊細にコースを回る。その凄まじさと仕事の早さから、彼のターンは「宇宙人ターン」と評されている。

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「ターンだけは絶対に誰にも負けないという気持ちでレースに臨んでいます。きちんと緩急をつけてターンの半径を狭くし、いかに最小距離を回り切るか。これがターンの肝ですね。目下の課題は、スタートの精度とエンジン出しです。スタート能力を向上させて、僕の長所であるターンと組み合わせれば、僕はもっと速く・強くなれると信じています」

レースの勝敗を決める “ちょうどいい”3分間。抜群のターン技術とタフネスさを武器に、茅原選手は明日も全力でレースに挑み続ける。

ボートレース芸人・永島知洋の視線

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茅原選手は一見破天荒に見えるが、実は天才的な感覚に裏打ちされたロジックでレースを展開している。どのコースからでも驚異的なターン技術でトップ争いに食い込む彼の走りは、これからもファンを沸かせ、夢を与え続けてくれるだろう。

茅原悠紀(かやはらゆうき 1987年7月11日生)

登録番号4418 身長171cm 99期 岡山支部所属
豪快なモンキーターンから生み出すターンスピードは艇界随一。2019年1月15日現在の蒲郡・福岡でのコースレコード保持者。

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