高身長選手に課せられる体重のハンデ

ボートレースは、体重が軽ければ軽いほど有利な競技だ。しかし、過度な減量は選手自身の健康状態を悪化させてしまう可能性があるため、男子は51kg、女性は47kgの最低体重制限を設けている。この体重を割り込んだ場合、ボートの操作性に影響する重量調整用の“オレンジベスト”を着用しなければならない。

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高身長の選手にとって減量は特に厳しい戦いと言えるだろう。優勝賞金は最高1億円、年間わずか8回のみ開催されるボートレース最高峰のグレード「SG」で優勝を遂げている白井英治選手の身長は173cm。一般的な適正体重約66kgというデータを基準に考えても、実に15kgの減量に挑む計算になる。

「勝負をかけるレースでは、極限51kgギリギリまで落とします。たしかに身長が低いほうが体重管理は楽だし、レーサーにも向いていると思いますが、最終的には自分が持つ力で勝負するしかない。身長が高い僕はレースで不利と言われますが、逆に身長が低い選手には彼らなりの悩みや苦労があるはずです。選手一人ひとり、それぞれが抱えているものも含めて僕らはレースに臨むわけですから」

食事は1日1食、レース当日も最低限の栄養補給のみ

たとえばボクサーは、試合に向けて数カ月の間過酷な減量を続け、軽量が終われば炭水化物など試合直前に適切な食事によって体重を「戻して」いる。しかし、365日どこかでレースが行われるボートレーサーにそんなインターバルはない。白井選手はハードなトレーニングを自身に課しながら、毎日の食事も厳しく制限している。たった500gの重量の差が勝敗に直結するシビアな世界。その努力は我々の想像を絶するほどだ。

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「もう絞るところがないくらい、身体には気を使っていますね。僕は今42歳ですが、年を重ねるにつれて体重が落ちなくなり、2年前から食事制限を始めました。今の食事は1日1食で、妻が作ってくれる炭水化物を極力除いたタンパク質多めの特別メニューを食べています。レース場でも最低限の栄養補給以外、ほとんど何も口にしません。以前は54kgくらいでも走っていましたが、51kgまで落とすと体重を意識する必要がなくなるので、精神的にもしっかり落ち着いて勝負をかけられるようになりました」

「51」は、自分のスタンスを決める数字

「51」kgを強く意識し始めたことで、白井選手のレースは少しずつ変化し始めた。以前は自身の感性だけを信じて無我夢中でレースに臨んできたが、最低体重制限を意識することでより冷静に自らを見つめられるようになったという。

強くなるための体調管理は、減量という物理的な成果にとどまらず、精神面でも白井選手を大きく成長させたようだ。不甲斐ないレース後の後悔はロジカルな反省に変わり、きちんと納得できるレースを展開。ここ数年、ストイックな体重制限のため、体重を割り込み重量調整をしたレースでは常に勝利という結果を残している。

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「最低体重に近づけることは、真摯にレースに向き合うための最低限の準備です。出走選手みんなが51kgを目指す中で、一人だけ重い選手がいたら観客からもライバルからも『本当に勝つつもりがあるのか?』と思われてしまうでしょう。もちろん体重だけで勝敗が決まってしまうわけではありませんが、僕は周りに『51』の数字を見せる姿勢の必要性を強く感じています。51kgという体重は、『レースに本気で向き合っている』という自分のスタンスの表明でもありますから」

ボートレース芸人・永島知洋の視線

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白井選手はオンとオフの切替えがすごくはっきりしている選手。レース開催期間中は話しかけるのも躊躇するほど集中しており、畏敬の念さえ感じるほど。しかし、レースが終わると打って変わって柔和になり、優しい笑顔をこぼしてくれる。レースではいついかなる状況でも抜群の対応力と勝負強さを見せつけ、観客の期待を裏切らない。

白井英治(しらいえいじ 1976年10月15日生)

登録番号3897 身長173cm 80期 山口支部所属
巧みなハンドル捌きによる鋭角的なターンを得意とし、「関門のホワイトシャーク」の異名を持つ。

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